2020年9月24日に、留学中の性被害について声をあげている活動団体SAYNO!の方々をお招きして、「第1回テーマ:学生が現地で遭う性被害」のオンラインサロンを開催しました。SAYNO!のメンバーが全国の大学生に向けて実施したアンケートの内容報告や、実際に被害に遭われた方の体験談をお話しいただきました。また、学生をフィールドワークに送り出す教員側の視点として、津田塾大学の八塚春名先生にもご登壇いただき、ご自身のフィールドでの経験や安全対策、学生たちに気を付けてほしいことなどをお話しいただきました。
目次
発表1 話し手:SAYNO!代表「SAYNO!の設立背景:留学生の性被害アンケート調査とマニュアル作成について」
SAYNO!は、留学中に性暴力にあった被害者が声を上げ、これから留学に行く全ての学生たちに自分たちと同じ思いをさせたくない、という願いから2020年5月に設立した団体です。留学生は、留学を実現する上で様々な困難や壁を解消し、親を説得したり、言語を習得したり、コツコツを貯金したり、様々な努力があって留学を実現できます。SAYNO!は、そのような未来を担う若者たちの勇気と覚悟が性暴力によって踏みにじられることなく、思う存分留学生活を全うできるような社会を目指している団体です。
1.SAYNO!の活動内容
SAYNO!の役割は、留学生が安全に留学できる社会の構築、仕組みを作ることです。具体的な活動内容は4つあります。
① 留学前セミナーの実施
これから留学に行く学生を対象に、大学や奨学金プログラムで、留学に行く学生に留学でのセクハラ・性暴力の実態や特殊性、予防策、万が一被害に遭った場合の対処法を伝えています。
② 実態調査
留学でのセクハラ・性暴力被害に関するアンケートを実施したり、実際に被害に遭った方の声を集めたりしています。
③ 資料作成
各大学や団体などで利用して頂けるよう、留学でのセクハラ・性暴力のアンケート結果や特殊性、対処法をまとめたリーフレットを作成しています。公式HP(SAYNO! (sayno-ryugaku.com))のトップページからダウンロードし、お気軽にご利用ください。
④ 政策提言
留学でのセクハラ・性暴力に対して大学や企業等に求める対応や予防策について、第5次男女共同参画基本計画に伴うユース提言を行いました。
2.留学におけるセクハラ被害のアンケート結果
留学におけるセクハラ被害のアンケート結果についてお話しします。ここで、共有させていただくのは、2020年5月〜7月に行った第1回目の留学先での性暴力に関するアンケートです。留学中に日本人または外国人から性被害もしくはセクハラを受けたことがあるかという質問に対して、下記の回答が得られました。(注:回答者516人)
なし:301件(全体の58%)
日本人からの被害:44件
外国人からの被害:112件
日本人からの被害現場を見たことがある:28件
外国人からの被害現場を見たことがある:31件
516件の回答のうち216件で被害に遭った・見聞きしたことがあるという結果が出ました。
今まで留学に行く前にセクハラに関するガイダンスを受けたことがあるかという質問に対しては、次の通りの回答でした。
ある:59件
ない:449件
その他、覚えていない、出発前に担当の先生からの口頭説明で、シャワーとか覗かれている気がしたらちゃんと相談してねなどという簡単な説明があった、とのことです。
以上のことから留学に行く前にセクハラに関するガイダンスを導入する事は非常に大事であると考えます。
2-1.日本人からセクハラ・性暴力を受けるケースも少なくない
次に日本人からの性暴力、留学セクハラについてお話したいと思います。
(注:516件のアンケート回答のうち、日本人からの性被害、留学セクハラに関する回答のみを抽出。)
下記は、留学中に性被害を受けたりその現場を見たり聞いたりした事はあるかという質問に対する回答です。
被害を受けたことがある:38件
被害の現場を見たことがある・聞いたことがある:43件
両方ある(被害を受け、他人の被害の現場を見たこと聞いたこともある):19件
実際に被害にあったときの所属を聞いたところ、高校1年生から社会人まで幅広い年代で被害に遭っていることがわかりました。なかでも、実際に留学をする人が多い大学3年生が半分以上を占めていることがわかりました。
・日本人からの性被害における被害者・加害者のジェンダー
次に被害にあったときの(被害者の)他者から見た性についてお話しします。
85件の回答があり、以下のようになりました。
女性:79件
男性:6件
男女関係なく被害に遭っていることがわかりますが、その大半は女性です。
次にセクハラをしてきた加害者の性別について、84件の回答があり、以下のようになりました。
男性:82件
女性:1件
両方から受けた:1件
ほとんどの加害者が男性であるということがわかります。
・留学期間と性被害との関わり
留学期間について、82件の回答がありました。
半年から1年:51件
1年以上:8件
1ヵ月未満:5件
1ヵ月から3ヶ月:10件
3ヶ月から半年:8件
留学に慣れて現地のことも少しわかるようになってきた半年から1年という期間で被害に遭っていることがわかります。
・日本人からの性被害の起こった地域
ヨーロッパ、北米、アジア、中東、オセアニア、南米、アフリカ、地域に偏ることなくすべての国で被害が起きていました。
・日本人加害者の属性
加害者の属性は大体が社会人でした。現地の駐在員商社、中小企業、国際機関、大企業、現地就職者、起業家、公的機関関係者、学校関係者、研究者、学部生や教授、友人、知り合いなどが挙げられました。多くの事例で被害者は20代前半、加害者は社会人であることがわかり、そのうえで留学先で信頼できる情報網が必要な若者の弱みにつけ込むケースが多かったです。
・留学先での日本人からの性被害、実際にあったケース
実際の例を紹介します。アフリカのある国では300人程の日本人社会があります。感染症や治安面でも先進国と比べあまり良くない環境でした。公的機関関係者や駐在員などは国内でも移動が制限されているため日本人同士の繋がりが非常に強い環境でした。現地では、アジア人でアフリカにくる=お金持ちというような社会通念があり、アジア人であるがゆえに狙われやすいことがあり、普段からまとまったお金を持ち歩くことができません。そのため、万が一突発的な事故に遭った時、大使館より先に連絡できる頼れる日本人が必要でした。リスク管理や情報共有の面からも日本人コミュニティとのコネクションが非常に大事でした。学生という立場から考えると、日本では普段会うことのできない駐在員や公的機関関係者、研究者の方にお話を伺う機会がある日本人コミュニティは危機管理以外の側面からも非常に大切です。
しかし、それを逆手に取られ性暴力に遭うことがあります。「日本人会に変な噂を流すよ。駐在のAさんと大学生の留学生が仲が良いと言う噂を流して、日本人コミュニティから二人を孤立させることができるし、留学生は帰るけど今後駐在のAさんは仕事がしづらくなるね」などと脅して性暴力に発展するケースが報告されました。
ここには構造的な問題があると思っています。地位や関係性を利用し、暴行や脅迫がなくても関係性におけるプレッシャーによって加害者は被害者の抵抗を奪い、性暴力が起こるケースが多かったです。親切なふりをして弱みにつけ込むことが非常に多いです。海外において、特に初留学においては、誰もが情報弱者になると思うので、そのリテラシーを高めるのは非常に重要だと思っています。立場を利用した構造的な性暴力に遭い、周りに頼ることもできず、声を上げられなかった学生がほとんどでした。
被害に遭った時に周りに頼れる人がいたかという質問に対しては、以下のような回答が得られました。
頼れる人がいた:47%
頼れる人がいなかった:52%
このことから、半分以上の人が誰にも頼れることができず、被害に遭い泣き寝入りしているという現状は変えていかなければならないと考えています。
2-2.外国人からの被害
留学中における外国人からの被害についてです。
(注:516件のアンケート回答のうち、外国人からの性被害、留学セクハラに関する回答のみを抽出。)
留学中に性被害・セクハラを受けたりその現場を見聞きしたした事はあるかという質問に対する回答は、下記の通りです。
被害を受けたことがある:84件
被害の現場を見たこと聞いたことがある:29件
両方ある:30件
日本人からの被害に比べ、外国人からの性被害は所属に関わらず幅広い年齢で被害に遭うことがわかりました。1番下は小学5年生でした。1番上は社会人です。幅広い年齢で被害に遭っていることがわかりました。
・外国人からの性被害における被害者・加害者のジェンダー
下記は被害にあったときの他者から見た性です。
女性:130件
男性:13件
日本人からの被害同様女性が多く、また男性女性関係なく被害に遭うことがわかりました。
加害者の性別については以下の通りでした。
男性:133件
女性:2件
両方:3件
・外国人からの性被害の起こった地域
日本人からの被害と同様、世界各国で被害事例がありました。
・留学期間と性被害との関わり
留学期間も日本人からの被害と同様半年から1年以上で現地に慣れてきた時期に被害に遭うことが多いです。
半年から1年:72件
1年以上:23件
1ヵ月未満:10件
1ヵ月から3ヶ月:16件
3ヶ月から半年:16件
・外国人加害者の属性
相手の加害者の属性は、以下のようになりました。
駐在の外国人:17件
同世代の友達:19件
それ以外の現地の外国人からの被害:101件
他にもホストファーザーや現地の人、知らない人など、日本人からの被害に比べ、顔見知りから被害に遭うケース以外にも全く知らない人からの被害も多く報告されました。
被害にあったとき周りに頼れる人がいたかという質問に対しては、以下のような割合になりました。
頼れる人がいなかった:60%
頼れる人がいた:39%
3.アンケート結果から浮かび上がる問題点
実際に被害にあった私たちから見た問題点についてお話しします。結果からは大きく3つのことが問題であると考えます。一つ目は、被害は世界中どこでも起きているということです。6つの大陸から性暴力や性被害が報告され、特に欧州、中南米、アフリカは留学者数に比べて被害件数の割合が多いことがわかりました。二つ目は、加害者が日本人の場合、情報弱者であるがゆえに構造的に被害に遭ってしまうということです。被害事例のほとんどの場合において被害者が20代前半、加害者が社会人です。私も実際にそうでしたが、留学先で信頼できる情報が必要な留学生が、その弱みにつけ込まれ、現地の日本人コミュニティで力があり、情報もたくさん持っている社会人から被害に遭いやすいといえます。三つ目は、外国人からの性被害の場合、文化の違いだから自分が慣れるべきだと思い、ノーと言えなかった学生が多いという結果が出たことです。
4.性被害マニュアルの作成
このことに対して、私たちSAYNO!では予防対策をすることの重要性を訴えていきたいと思います。性暴力の無い世界が当たり前であって欲しいし、加害者に対して変化を求めることもなにより大事ではありますが、私たちが今できることは、被害者になり得るこれからの留学生に対して予防対策をしていくことであると考えています。このことから、私たちはこのようなマニュアルを作成しました。被害者になってしまった場合の万が一の対処法をまとめ、これらを大学や留学の奨学金機関に配布しています。被害に遭ってからの情報も載せています。上記の三つ目の問題(文化の違いだから自分が慣れるべき)から、私たちはマニュアルで外国人からの性暴力に対して自分の心と体の安全性を第一に考えて欲しいということを伝えたいと思っています。
5.日本人による性暴力の悪質さ
最後に、これらを踏まえた上で、日本人からの被害は非常に悪質であり、自分自身の危機管理リスクを考えたときに、日本人に頼らざるを得ない状況ができてしまうことが非常に問題であると考えています。外国人からの被害でも、“同意“意識が文化によって曖昧になってしまうことが問題であると考えています。被害後、学生のホットラインも少なく、被害に遭った後、誰に何の相談をしたらいいかわからないケースや、日本で性被害に遭った場合よりも泣き寝入りしてしまうケースが多く、大学や留学斡旋側の留学前のガイダンスやコミュニケーションが非常に大事であると考えています。