目次
- 発表1 話し手:SAYNO!代表「SAYNO!の設立背景:留学生の性被害アンケート調査とマニュアル作成について」
- 1.SAYNO!の活動内容
- 2.留学におけるセクハラ被害のアンケート結果
- 2-1.日本人からセクハラ・性暴力を受けるケースも少なくない
- 2-2.外国人からの被害
- 3.アンケート結果から浮かび上がる問題点
- 4.性被害マニュアルの作成
- 5.日本人による性暴力の悪質さ
- 発表2 話し手:SAYNO!メンバーA「留学先での性被害の事例:①日本人からの被害」
- 発表3 話し手:SAYNO!メンバーB「留学先での性被害の事例:②外国人からの被害」
- 発表4 話し手:八塚春名先生(津田塾大学)「学生を送り出す立場から、生じる葛藤や疑問」
- 1.わたしの場合:フィールドで感じたこと、気を付けていたこと
- 1-1.フィールドワーク初心者のときの経験
- 1-2.フィールドの人に守られること:村での立ち位置と暮らし
- 1-3.調査地で気を付けた安全対策
- 1-4.テントをどこに張る?新しいフィールドで孤立しないことの大切さ
- 2.学生の皆さんに気を付けてほしいこと
- 2-1.ホームステイ先選びは慎重に
- 2-2.現地の人の厚意に甘えること
- 2-3.恋愛なら問題ない?フィールドでの恋愛にまつわる複雑な問題
- 3.教員が気を付けること:フィールドでの学生との距離感
- 総括 話し手:椎野若菜(東京外国語大学、NPO法人FENICS代表)
- 1.フィールドワークと留学の違いと接点
- 2.フィールドワークと性被害・ハラスメントという問題
- 3.SAYNO!との「被害対策マニュアル」作りを通して感じたこと
- 4.今後の活動について
- ディスカッション
- SAYNO!による被害者学生への支援は?
- 大学での取り組みは?
- トランスジェンダー学生や研究者の留学・フィールドワークは?
- フィールドワーク中のハラスメント予防策
- 人との繋がりについて
- 留学と調査滞在の違い
- フィールドでの過度なスキンシップをどう考えればいいのか
発表2 話し手:SAYNO!メンバーA「留学先での性被害の事例:①日本人からの被害」
私はヨーロッパのある国に、昨年の8月末から今年の7月まで留学していました。大学を休学して、首都にある大学に言語習得のために通っていました。のちに私の加害者となった日本人男性Aさんと知り合ったのは、現地の日本センターです。3年前から駐在しているAさんはお子さん二人を日本語補修校に連れてきて、お子さんたちの授業終了を待っているところでした。私は日本語の本が借りれると伺い、初めて日本センターに来たところでした。そこでAさんに声をかけられました。それまで日本人の知り合いが現地に一人もいなかった私は、気にかけてくれたのがとても嬉しかったのを覚えています。いずれ大好きであるその国でAさんの会社などの駐在員として働きたいと考えていた私は、現地での仕事の内容、どんな生活をしているのかなど色々と話を聞かせてもらいました。現地の日本人コミュニティのことや、どこのカフェが日本人の舌に合うかなど、留学生活をより楽しくするための情報もたくさん教えてもらいました。治安が悪化したときには、大使館よりも早く情報を送って下さったりもしました。
しばらくして、「そろそろ日本食が恋しくない?うちなら日本の番組が見れるよ!」と誘われるようになっていきました。家に行くのはまずいのではと思い、「外のレストランで食べませんか?」と提案していたのですが、それでも誘い続けるので、「お世話になっているのにあんまり断るのも失礼かな、一度行けばもうAさんも納得するだろう」と思って相手の家に行ってしまったのが間違いでした。
「やめてください」と泣く私の声は全くAさんに響いていないようでした。信頼していたAさんが全く私の話を聞いてくれず、「大丈夫、大丈夫」とまるで私が間違っているかのように続けるのにとても混乱しました。(今いるのは)マンションの上の方で、家から外へ出る道も、覚えていない、もしかしたら追いつかれてしまうかもしれない、外国で夜に乱れた服で外には出れない、荷物を置いていけないと、逃げることは考えられませんでした。とにかく相手を逆なでしないように、なるべく平和にことを終わらせる方法だけを考えていました。
被害直後は、あれは大したことではなかったのだと思い込んでいました。しばらくして、ある日本人女性から話の流れで「Aさんには気を付けた方がいいよ」と言われ、初めてことの重大さに気づきました。その女性も、Aさんから被害に遭いかけたと言っていました。彼女に全てを話し、これは人に相談すべき事態なんだと初めて自覚しました。そこから心がおかしくなっていったのをよく覚えています。突然涙があふれだし止められなくなる、大好きだった学校に通えなくなる、ホストファミリーの作ってくれた食事がのどを通らなくなるなど、人に迷惑をかけている自分がすごく嫌になりました。
一方、なんとか心が楽になりたいと、現地の日本人大使館の職員や他の駐在員に相談したりもしました。ほとんど男性しかおらず、また小さな日本人コミュニティではすぐに噂が回ってしまうと聞いていたので、相談するのはとても勇気がいりました。皆さんその場では話を聞いてくれましたが、そのあとだんだんと距離を置かれました。「なんで家に行ったの?」「本当に同意がなかったの?」と何度も聞かれることも精神的負担になっていき、相談はしなくなりました。あまりにも辛く、日本のカウンセラーに相談しようともしましたが、「オフィスに来てください」と言われるのが大半で、のちに加害者の企業から紹介されたカウンセラーはオンラインで受け付けてくれましたが、1時間約5000円で私には気軽には相談できませんでした。
一方、身体の方でも問題を抱えていました。妊娠と性病の不安を抱えつつ、医療レベルが低く、日本語でもよくわからない妊娠や性病を現地で検査する勇気もありませんでした。妊娠に関しては、生理が来るのを待つということになってしまいました。最終的には相談していた日本人女性の方が一緒に来てくれて現地で性病の検査はできましたが、検査に踏み切れたのは事件から2か月後でした。
また法律で訴えようにも、現地では大使館内で起きたことしか日本の法律で裁けないと聞き、精神的にも身体的にも疲弊しきっていた私はすぐに諦めてしまいました。親身になって下さった日本人女性のサポートのもと、法テラスというシステムを使い、弁護士に何度か電話やメールで相談させてもらいながら慰謝料を請求することができました。Aさんは弁護士を雇っているため、相手の会社の顧問弁護士やAさんの弁護士と話し、交渉する日々が続きました。金銭的に弁護士を自分では雇えない私は、直接相手の弁護士と電話で話すしかなかったのです。疲弊しきって、一刻も早く全て忘れて、留学生活に集中したい中、あくまでAさんとその会社を守るのが目的である弁護士たちとやり取りするとはとてもつらかったです。
しばらくして、同じく留学を経験した友人たちから、似たような被害を受けたという声をちらほら聞くようになりました。そこでだんだんと立場の弱い日本人留学生が、駐在員から被害にあうという事例は世界各国で起きているのではないかと思うようになりました。そんななか、全く同じ問題意識を持っていたメンバーが声をあげ、現在のSAYNO!の仲間が集まりました。第一回「留学でのセクハラに関するアンケート」をオープンした日のことは今でもはっきり覚えています。たった一日で200件以上の回答、詳細に記載された悲惨な被害の数々に、私のうっすらと感じていた問題意識が、はっきりと大きな問題だ、これはなんとかしないと、これからもこの構造的問題で被害に遭う学生が出続ける、という強い危機感に変わりました。