ウェブアーカイブ:第2回HiFサロン(FENICS共催)「フィールドで、性被害に遭ってしまったら」

目次

2.性暴力に遭ってしまったら

2-1.性暴力に遭ってしまったときの窓口

 日本の場合、性暴力に遭ってしまったらどうしたら良いかというと、一応相談窓口が全国にあるんですね。ワンストップセンターって言いますけど、病院型のところとか、あとNPOがやっているとことか、色々あります。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp))のホームページにアクセスしていただくと、日本全国どこが近いかっていうのがわかりますので、まずそこに電話とかメールとかで相談していただくというのが第一歩だと思います。ご自分でいきなり警察に駆け込むとか、産婦人科を受診する方はすごく少ないです。そんな気力はなくなってしまうので、どうして良いかわからない、どうしようというのがまず第一だと思うので、なかなか自力でっていう方はほぼいないと言ってもいいくらいです。そこで、まずこういう所があるってことを普段から知っていただきたい。うちもクリニックのトイレにこの小さいカード版の案内を何種類か、東京都のワンストップセンターのとか、何種類か置いているんですね。あとは、DV被害者の支援センターの連絡先もそこに置いています。普段からそういうものを知っておくというのも大事で、どうしようと思った時、ネットでも男女共同参画局(内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp))を検索していただくと出てきますので、そういうところに繋がっていただけると良いかなと思います。

 東京の場合、性暴力救済センターSARC東京(性暴力救援センター・SARC東京|性暴力や性犯罪の電話相談を24時間365日受付 (sarc-tokyo.org))のホットラインもあります1注1:SARC東京のホットラインでは、海外で起きた性被害でもメンタル面のケアや帰国後の性感染症検査については対応していただけます。加害者の捜査や緊急避妊用ピルの処方といったことについては現地の警察、大使館に問い合わせてください(2021年3月16日確認)。

 このSARC東京は東京都と共同で事業をやっていて、性暴力被害者の支援をしています。ここに電話しますと、必要な場合はすぐに産婦人科を受診するということと、そういう時の同行支援として付き添ってくれますし、警察とかに行く場合はやはりそこも同行支援してくれます。色々と寄り添って相談員が話を聞いてくれるところですので、東京ではここですね。一応、47都道府県にそれぞれセンターが今はできているんですが、24時間対応しているSARC東京とは違って、人材の不足とかで、24時間は難しくてなかなかすぐ行けないというところもあります。一応、こういうものが全国にできつつあって、日本はそこに相談してくださいというふうになってます。

2-2.性被害後の対処法1:緊急避妊ピル

 被害、特にレイプ被害に遭った場合、やはり妊娠してしまうかもしれない、というのが被害者が一番心配するところだと思うんですけれど、これに関しては緊急避妊用のピルというものがあります。これは、行為があってから72時間以内、つまり3日以内にホルモン剤を飲むことで排卵を遅らせるというもので、それで90%くらい妊娠を避けることができるというお薬です。これは産婦人科で現在は処方されています。72時間以内ですから、もちろん早ければ早い方が良いのですが、1日目じゃないとダメとか、夜中だったら夜中のあいだに行かなきゃいけないというわけではなくて、翌朝病院が開いてからでも間に合います。3日以内であれば大丈夫です。

 今この緊急避妊のピルは、フランスをはじめとするヨーロッパや海外では、薬局で販売されてるんですね。でも日本は、OTC化2注2:Over the Counterの略。薬局やドラッグストアなどで処方箋なしに購入できる医薬品のこと。されているものは良いんですけれども、処方薬や保険薬みたいなものは、薬局で薬剤師さんの一存で処方できないんです。そのため、緊急避妊ピルについては、一応医師の診察を受けて医者が処方するというかたちになっています。しかし、この緊急避妊のお薬は一刻も早く飲んだほうがいいので、薬局で簡単に買えるようにできないか、今検討されています。あと新型コロナウィルスが流行してからは、オンライン診療というのが少し普及してきているんですけど、オンライン診療で緊急避妊薬を出すということが一部始まってはいるんですね。ただ、私としては、オンライン診療に緊急避妊ピルっていうのは適さないと思っています。というのも、オンライン診療では画面を通じて問診をして、じゃあお薬を出しましょうといって郵送するわけですね。処方箋を送るか薬そのものを郵送するか。そうすると、やはりそれだけ時間がかかってしまうので、アクセスできる所が近くにあれば産婦人科に来てもらって、そこですぐ飲んでもらうっていうほうが、確実性も高いですし、早いかなと思っています。

2-3.性被害後の対処法2:証拠の確保

 警察に訴えるか訴えないかというのはもちろんご本人の意思次第なんですけども、実は訴えている方の方が少ないです。ただ、訴えるということを前提に、私たちは証拠物質を取っておかないといけないです。皆さん被害に遭うと本当に一刻も早くお風呂に入って、シャワーを浴びて、もう汚いものを流したいってすごく思われるのは当然だと思います。ですが、そこでちょっと待っていただいて、衣服を洗わずに保管する。それからシャワーとかトイレはもちろん生理的欲求ですから難しいですけど、でもできればそういうのはしないで、証拠(相手の精液や毛髪など)を産婦人科で取ってもらうと。レイプキットというのがあるんですけど、加害者のDNAとか体毛とかを取れる、また膣の中に残っている相手の精子を採取できたっていう例もあります。こういうものは、一応被害者の方が来られた時は、もちろん同意を得た上で、私たちは証拠採取をさせていただくようにしています。もちろんそれを使って警察に訴えるかどうかはご本人の意思の問題なので、使わないでそのままという場合もあり得ます。ただ、やっぱり後になって訴えたいと思った時に、何もないというのは困りますので、一応取らせてもらったりはしてます。その後は冷凍保存するわけなんですけど、うちには被害に遭ってすぐに来られるっていう方よりは、何年も経ってからそのことを打ち明けてくださる方の方が多いので、今現在保存してある証拠物質はありません。でも、私の友人で、そういう活動をしている富山の産婦人科の先生の冷凍庫は今一杯になっているということを仰っていました。レイプキットで取ったものが詰まっていて、なかなか皆訴えるって言わないのでそのまま残してると仰ってました。

2-4.性被害後の対処法3:性感染症対策

 妊娠とともに、怖いのが性感染症ですね。性感染症のご質問もチラッと見たんですけれども、性感染症にも色んなものがあります。まず、被害に遭ってすぐに行う性感染症の検査は、おりものを取ったり子宮の入り口の粘液を取ったりする検査、あと血液検査とかで調べるものがあります。これは、1回目にやる時は被害直後にみて、その時点でその病気にかかっていないかどうかがわかります。その後、もう1回検査をしなくてはいけません。それは、性感染症というのはほとんどのものに潜伏期があるからです。その場でかかっていてもすぐに出てくるわけではないので、3週間以上経ったところで2回目の検査をします。被害直後に取った時は陰性だったのが、2回目の検査結果では陽性になっていたとしたら、それは明らかに被害によって感染を起こしたということになりますから、それを確認するために2回検査をします。産婦人科に行くとこういう検査と対処法をやりますが、警察へ届け出ましょうってことになりますと、今度は被害申告というのをしないといけないんです。

2-5.性被害後の対処法4:心理的・経済的なハードルの高い警察への届け出

 先程言った証拠物質というのを警察に出して、警察での事情聴取、調書の作成、この辺がすごくハードルが高いんですね。嫌なことをもう一回聞かれる、思い出さないといけない、話さないといけないっていうのは非常にセカンドレイプに近いようなかたちになります。もちろん女性警察官が取調べに当たったりとか、なるべく気持ちに配慮してというのは警察の方も昔よりはできてきているらしいんですけど、でも警察で取調べ、調書を作成するというのはまだまだ非常にハードルが高いと思います。でも申告をすると、先程の検査とか治療のお金が全部公費負担になります。無料になります。でも、これは訴えないとダメなんです。本当は全部無料にして欲しいんだけど、訴えないと無料にならないんですね。そして、調書の作成よりもっとハードルが高いのが、実況見分、再現見分といって、ここでどういうふうにされましたかとか、どういうふうに触られましたか、何処を触られましたかみたいなことをやるんですね。それで調書を作成するってことなんですけど、非常に気分の良いものではないと思います。だからこのハードルを超えて申告しましょうという人が少なくなるのは当たり前だと思うんですけど、一応現時点ではこのようなシステムになってます。

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    注1:SARC東京のホットラインでは、海外で起きた性被害でもメンタル面のケアや帰国後の性感染症検査については対応していただけます。加害者の捜査や緊急避妊用ピルの処方といったことについては現地の警察、大使館に問い合わせてください(2021年3月16日確認)。
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    注2:Over the Counterの略。薬局やドラッグストアなどで処方箋なしに購入できる医薬品のこと。