ウェブアーカイブ:第1回HiFサロン(FENICS共催)「学生が現地で遭う被害」

目次

ディスカッション

*当日は、zoomのチャット欄に書き込まれた質問やコメントを読み上げ、それに登壇者が応答するという形で行われました。下記のQが聴衆側のチャット欄への書き込み、Aが登壇者側の応答です。

SAYNO!による被害者学生への支援は?

Q1. SAYNO!代表さんへ一点の質問です。この団体では留学前の多くの学生にセクハラに関するセミナーや対処法を紹介してます。この団体では留学中及び留学後にセクハラに遭った学生には支援は行っているでしょうか?

A1. (SAYNO!代表)ありがとうございます。今の段階では私たちは予防に力を入れていて、被害に遭った学生についてはこれから力を入れていきたいと思っています。

大学での取り組みは?

Q2. 八塚さんへ質問です。送り出す側からの予防策についてお話しいただき、ありがとうございます。フィールドで不測の事態に巻き込まれる学生としては、こうした予防策の上で起こってしまった場合の、被害後の学生の状態や希望を熟慮したかたちのホットラインの整備が重要であると思うのですが、貴大学ではどのような取り組みがあるのか教えていただけたらと思います。

A2. (八塚)まだ被害後の話までは手がつけられていないというのが正直なところです。津田塾大学では3年生からフィールドワークに行くことを推奨していて、2年生のゼミナールで病気や治安を含む安全対策について、外部の先生から話してもらっています。その中で必ず性被害の話も取り上げてもらっているので、外部の先生から被害後の話が出ることはあるかもしれませんが、大学としてきちんとしたマニュアルは設けていません。必要だということは認識しているので、今後、動いていきたいです。

トランスジェンダー学生や研究者の留学・フィールドワークは?

Q3. 八塚さん、椎野さんへ質問です。トランスジェンダーの学生や研究者が安全に留学やフィールドワークを行うために、すでに話されていることなどはありますか。

A3. (八塚)ありがとうございます。津田塾大学も将来的にトランスジェンダーの学生さんも受け入れるという方向に進んでいくと思うので、近い将来、これは現実的な課題になると思います。しかし今のところ、この問題について話していることはありません。ただ津田塾大学は非常に小さな大学で、教員と学生の距離が近いということもあり、先ほどのアフターケアに関するご質問にも重なりますが、一対一で個別のケースに対応することが可能です。そうした個別のケースを積み重ねていって、そこから次に次にと対応していく。今のところはそういう形しかないのかなと思っています。

A3. (椎野)FENICSとしては議論もまだできておりません。これは大きな問題で、人類学の観点から考えると、アフリカやイスラム世界では男性・女性の空間というのは大きく分かれているんですね。そうした場所に調査に行く際どういう対応をすれば良いのか。これは大きな議論で学問的にも方法的にも取り組まなければいけないと思っています。事実、フィールドワークの手法を教えている人は、こうした葛藤を持っていると思います。自分のジェンダーやセクシュアリティを考えてフィールドに入ることを教える際、これは共有して議論していきたいと思っています。

フィールドワーク中のハラスメント予防策

Q4. 八塚春名先生が指摘されたこと、ハラスメントの予防策はまさに基本のキだと思います。台湾で25年調査を続けてきた女性研究者として私が感じた経験則と重なります。

A4. (八塚)私の話を基本としながら、前半のSAYNO!の方々の具体的な事例を発展形につなげるような形で検討できたらいいなと思っています。

人との繋がりについて

Q5. 多様な人間関係を維持することの重要性を感じたのですが、どんな人と繋がっておきたかったのか、紹介して欲しかったのか教えて頂ければと思います。

A5. (SAYNO!代表)実際自分が被害に遭って、それを相談できる大人がいませんでした。大学とは違うプログラムで参加していた場合、果たして大学は面倒を見てくれるのかわかりませんでした。日本の性暴力に関する支援センターに電話したところ、海外の事例は受け付けてないと言われたり。海外に対応している支援センターの設立も大事だと思いました。

A5. (SAYNO!メンバーA)私の場合は現地で相談できたのがほぼ男性しかいなくて、その人たちは1年か滞在しない留学生の私よりも、現地に何年もいる加害者の肩を待つような人たちでした。そのため、どんな人がいいかというよりは、もし皆さんの周りに被害に遭った子がいたら100%被害者は悪くないということを意識する、見離さないで見続けてあげるということをして欲しいと思います。

A5.  (SAYNO!メンバーB)私の場合は自分の団体や仕事で関わっている人以外の誰か、つまり自分の被害を通して偏見が生まれる危険のない第3者がいてくれるというのが大事だと思います。

留学と調査滞在の違い

Q6. 学部生の留学の場合、どこか村にずっと滞在するというよりは街で誰とも深い人間関係を築いていない状態であるという認識なのですが、そうした状態で対策していたことがあれば教えて頂きたいです。

A6. (八塚)最初の頃、人の家に泊まらずホテルにいましたが、街の様子もよくわからないからさっさとホテルに帰っていました。でもそれだと楽しくないので、人の家に泊まるようになりました。それで良かったと思うのは、セキュリティ対策なんて一切されていない長屋のような場所であっても、人の目があることです。みんな私のことを見ているけれど、同時に私に対して近寄る不審者も見逃さなくて、「あの人には気をつけて」などと教えてくれるんです。そこは非常に良かったと思っています。人の家に泊まることはできず、地理関係も分かっていないという場合も、積極的にホテルの人に周辺情報を聞いたりしてコミュニケーションを取ることはやってみればいいかなと思います。

フィールドでの過度なスキンシップをどう考えればいいのか

Q7. フィールドでの過度なスキンシップをハラスメントと捉える自分と、単なるコミュニケーションの一部として、彼らの当たり前と考えて納得しようとする自分がいます。その境界線を引くのが難しく、さらに相手との関係性が崩壊してしまうのがやはり怖かったりします。

A7. (八塚)私は基本的に自分が嫌だと思った場合は、なるべく嫌だというようにしています。ただ、それができるようになるにはフィールドに行って数年かかりました。最初は遠慮もするし現地の人との人間関係も気になるし、言ってはいけない気がして我慢することもありました。でも今は言っています。そうしてわかったことは、結果的に嫌なことを嫌と伝えると、意外に相手は「わかった」と受け入れてくれるケースもあるし、そうでなくても周りにひとりでも私の気持ちに気付いてくれる人ができるかもしれないなと思います。

A7. (椎野)この問題は次回以降のフィールドの文化との問題で考えていかなければいけないですが、ただ、ある意味答えがないのかもしれないと思います。嫌だというのは個人によって違うので、それをいかに伝えるかというのを経験から聞いて学んでいくのもひとつだと思います。ただ深刻なのは、大変な性被害に遭ってしまった後にそのフィールドに帰れるのかということ。フィールドが怖くなってしまうとかね。そういったところはもう少し時間が必要ですし、克服するために誰と話し合いがしたいのか、ということも考える必要があると思います。