2021年1月29日に、産婦人科医・日本臨床心理士であり、よしの女性診療所で日々患者さんと向き合っておられる傍ら、精力的に情報発信をされている吉野一枝先生をお招きして、女性限定オンラインサロンを開催しました。「女性のカラダとココロ〜性の自己決定権〜」と題して、女性自身も意外と知らない身体のこと、ピルのこと、性被害に遭ってしまった際の対処方法などについて、貴重なお話をうかがいました。今回は最終的に60人以上の方からご登録がありました。
FENICS(FENICS (jpn.org))では、2016年の12月に「女性フィールドワーカーの健康管理」と題して、女性特有の身体とどう付き合ってライフワークとしてのフィールドワークを続けたら良いのかということでサロンを開催したことがあります。それはFENICSのシリーズ12巻の「女も男もフィールドへ」(第12巻 女も男もフィールドへ | 100万人のフィールドワーカーシリーズ | FENICS (jpn.org))に書いてくださった久世濃子さんとの企画でした。今回のサロンは、前回のサロンで性被害の話題を提供してくれたSAYNO!の学生さんたちたっての希望で、もしフィールドで性被害に遭ってしまったらどうしたら良いのか、という情報を知りたいということもあって企画しました。いわゆる性被害の専門家というのは日本にとても少ないようで、吉野先生もとてもお忙しい中、ちょっと趣旨とずれるかもとおっしゃりつつお引き受けくださいました。
話し手:吉野一枝先生
オーガナイザー:椎野若菜(東京外国語大学AA研)
司会:堀江未央(岐阜大学)
目次
- 話し手:吉野一枝先生「女性のカラダとココロ〜性の自己決定権〜」
- 1.はじめに 性暴力と固定観念
- 1-1.性暴力ってなに?
- 2.性暴力に遭ってしまったら
- 2-1.性暴力に遭ってしまったときの窓口
- 2-2.性被害後の対処法1:緊急避妊ピル
- 2-3.性被害後の対処法2:証拠の確保
- 2-4.性被害後の対処法3:性感染症対策
- 2-5.性被害後の対処法4:心理的・経済的なハードルの高い警察への届け出
- 3.緊急避妊について
- 3-1.緊急避妊ピルってどんなもの?
- 3-2.緊急避妊ピルの値段は?飲む時期は?:おすすめは低用量ピルの常用内服
- 3-3.妊娠から出産までの期間は意外と短い:日本で中絶できるのは21週6日目まで
- 4.低用量ピル
- 4-1.女性の一生と女性ホルモン:女性の健康問題と女性特有疾患について
- 4-2.妊娠の予定がないときには排卵・月経は必要ない
- 4-3.疾患予防策としての低用量ピル
- 4-4.そもそも、ピルって何?
- 4-5.低用量ピル、どんなものがある?副作用は?
- 4-6.フィールドワークに低用量ピルとコンドームの携帯は必須
- 5.ジェンダーと性暴力
- 5-1.症状の背景にあるメンタル、ジェンダーの問題
- 5-2.DVの根底にあるジェンダーバイアスと権力性:対等な関係を築くことの大切さ
- 5-3.ジェンダーバイアスの克服と性の自己決定権
- 6.質疑応答
話し手:吉野一枝先生「女性のカラダとココロ〜性の自己決定権〜」
1.はじめに 性暴力と固定観念
吉野です。こんばんは皆さん。今日は性暴力被害に遭ったらというテーマをいただきました。私ももちろんその専門家ではないのですが、ただやはり性暴力、巷にすごい溢れているんですね。産婦人科の外来をやっていますと、被害に遭われてる女性ってすごく多いんです。そこで、日本で性暴力の被害者たちがどういうところに駆け込めるかとか、そういう情報を少し提示したいと思います。海外のことは私もよくわかりませんし、国によっても全く別だと思うので、それぞれ行く国にあわせて事前に調べていただくのがいいのかなと思います。まずは日本の状況をお話しさせていただこうと思います。
1-1.性暴力ってなに?
今日は「女性のカラダとココロ〜性の自己決定権〜」という、これはもう基本的な人権ですので、これをしっかり押さえて自覚していっていただきたいなと思っています。性暴力って一口に言いますけど、レイプとか子供への性虐待とかはもちろん性暴力だと理解できると思うのですが、痴漢も全部性暴力です。それからポルノ被害ですね。ポルノとかAVに出演を強要されたり騙されて出演させられたりとか、そういうのも性暴力被害ですし盗撮も性暴力です。これらに共通していることとして、同意のない性的行為はすべて性暴力だということをわかっていただきたいと思います。同意がある、もちろん恋愛関係の中でもレイプまがいのことは、相手が嫌だと言ったらそれはもう性暴力になるわけですね。夫婦関係であろうと恋人関係であろうと、相手がNOと言ってるのに無理矢理するというのは全部性暴力です。DVなどもそれに入ってきます。DVの中にも性暴力はある訳なんですけれども、これらは全部性暴力です。
1-2.性暴力被害にまつわる固定観念
よく性暴力について語る時に、裁判などでもそうですが、間違った常識というか意識を結構皆さんお持ちなんですね。若い女性だけが被害に遭う。これは違います。男性も被害に遭いますし、子供も被害に遭います。あと、暗い夜道を歩いてたら見知らぬ人からレイプされたっていうのもありそうな話ですけど、実は昼間でも堂々とレイプは行われますし、レイプ犯は見ず知らずの人ではなく、大体6割が知り合いです。あと被害者が派手で挑発的な、まあ裸に近い格好をしてたとか、それがいけなかったんだってことも言われますけど、真夏にどんな服装で歩こうと、真っ裸で歩いたとしても、法律には違反するかもしれませんが、それがレイプをしていいということにはなりません。これはまだ日本の裁判で非常に問題のあるところなのですが、死ぬほど必死の抵抗をしないのは合意の証、と裁判上は取られてしまうんですね。日本の刑法も、この前110年ぶりに改定されましたけれど、全く足りなくて、まだまだ性暴力の被害者に対する救済にはなってないと思ってます。
また、加害するやつは異常なんだと、精神的な異常者がそういうことをやるんだ、という固定概念もありますが、とんでもありません。ごくごく一般的で普通の社会生活を送っている、社会的にもある程度地位があったりだとか、お金もあったり経済的に余裕がある、そういう人でも加害者になり得ます。レイプは衝動的なものというのも間違いで、多くのものはだいたい計画的です。もちろん見ず知らずの人ではなくて、たとえば学校でいうと教えられる側と教える側とか、そういう力関係が発生するところにはこういうことが起きやすいんですね。もちろんレイプだけではなくて、さっき言った性暴力全てに当てはまるんですけど。
NOと言って、嫌ってちゃんと拒否してるのに、「嫌よ嫌よも好きのうち」って昔の都々逸にあったんですけど、その「嫌って言ってる方は実は本心では嬉しいんだ、喜んでいるんだ」っていう、間違った、女性蔑視の考え方が割と世の中で流通しています。嫌なんていうのは表面上で、本当は喜んでるんだという考え方です。これも大間違いです。実際に被害にあった方は違うとわかってらっしゃると思うんですけど、そういうことを知らない一般の方たちが思ってるイメージっていうのは、割とこういうものが多いですね。