目次
- 話し手:吉野一枝先生「女性のカラダとココロ〜性の自己決定権〜」
- 1.はじめに 性暴力と固定観念
- 1-1.性暴力ってなに?
- 2.性暴力に遭ってしまったら
- 2-1.性暴力に遭ってしまったときの窓口
- 2-2.性被害後の対処法1:緊急避妊ピル
- 2-3.性被害後の対処法2:証拠の確保
- 2-4.性被害後の対処法3:性感染症対策
- 2-5.性被害後の対処法4:心理的・経済的なハードルの高い警察への届け出
- 3.緊急避妊について
- 3-1.緊急避妊ピルってどんなもの?
- 3-2.緊急避妊ピルの値段は?飲む時期は?:おすすめは低用量ピルの常用内服
- 3-3.妊娠から出産までの期間は意外と短い:日本で中絶できるのは21週6日目まで
- 4.低用量ピル
- 4-1.女性の一生と女性ホルモン:女性の健康問題と女性特有疾患について
- 4-2.妊娠の予定がないときには排卵・月経は必要ない
- 4-3.疾患予防策としての低用量ピル
- 4-4.そもそも、ピルって何?
- 4-5.低用量ピル、どんなものがある?副作用は?
- 4-6.フィールドワークに低用量ピルとコンドームの携帯は必須
- 5.ジェンダーと性暴力
- 5-1.症状の背景にあるメンタル、ジェンダーの問題
- 5-2.DVの根底にあるジェンダーバイアスと権力性:対等な関係を築くことの大切さ
- 5-3.ジェンダーバイアスの克服と性の自己決定権
- 6.質疑応答
Q21. ピルを使用すると使用しなかった場合に比べて閉経は後ろ倒しになるのでしょうか。
吉野先生
それはないです。閉経というのはだいたい卵巣機能で、もう遺伝的なものなんです。なので、やっぱりすごく早く終わっちゃう家系もあれば遅くまである家系もあって、それこそうちの患者さんで実際いたんだけど、30代、38くらいで閉経しちゃったりとか、逆に姉妹で60まで生理あった例もあります。なのでそれぐらい開きがあるんです。家系なんですよ。そういう家は、おばあちゃんもお母さんも早かったとか遅かったとかっていう傾向があって、早まっちゃう方はちょっと後天的に喫煙してたとかね、そういうことで早まっちゃったりすることありますけど、閉経が遅いっていうのはもう家系ですね。なので、ピル飲もうと飲むまいと、妊娠・出産1人2人しようがしまいかあんまり関係ないです。
Q22. ピルの副作用に関しても先程のお話の中で今はほとんど解決しているということでしたね。
吉野先生
はい。
Q23. 以前低用量ピルを飲もうと母親に相談したところ反対されてしまいました。
吉野先生
そうそう、お母さん世代ね。お母さん世代は強力に反対する人が結構多いですね。だから中高生にピルを出す時は、うち中高生はもうひとりで入ってもらってお話しするんです。それで、最終的にピルを飲むことになって説明する時は、お母さんも一緒に聞いてもらうようにしてます。以前、本人だけに話して持って帰らせたら、お母さんに飲むなって言われたって返しに来た子がいたんです。やっぱりお母さんはちょっと強力なので、説明をちゃんと聞いてもらう。ただお母さんたちも受験の時になると、受験のために生理どうにかなりませんかとお母さんの方が言ってこられるので、ピル飲めばっていうとそれはすぐ受け入れるんですよ。じゃあ試験が終わるまで飲みますみたいな。何なんだそれはと思うんだけど。
うちはさっき言ったように、更年期の世代の方々、それこそお母さん世代の患者さんが一番多いので、まずお母さんたちに更年期の治療としてもホルモン剤よく使うんですね。ホルモン補充療法というHRDというのをやるんですけど、それである程度ホルモン剤に慣れていただいた方は、お子さんのピルもあっさり受け入れます。自分がホルモン剤で結構楽になったっていう経験があると、そういう体験をすると、娘が生理痛酷いんでって(相談に来たときに)、じゃあ保険で出るピルありますよって言うと、ああじゃあちょっと飲ませてみます、連れて来ますみたいな話になります。お母さんのほうから入ってきた方たちは、そういう説得はあまりしなくて済む。
ただお嬢さんが先に来ちゃって、ピル飲ませるとなると、お母さんとか、場合によってはお父さんとかが、非常に手強い反対派になって強固に言ってくることはあります。でも、ちゃんと説明して理屈を言うと、理解される方は理解されるので、将来不妊症にならないためには今飲んでおいた方がいいですよとか、試験のためだけじゃなくて、これから社会人になったら会社簡単に休めないですし、仕事のパフォーマンスも落ちちゃうから飲んでおいた方が楽ですよとか、そういうふうに言うと、出始めの頃よりは反対で困ったということは少なくなっている気はします。
リプロダクティブ・ヘルス・ライツじゃないけど、自分の身体は自分のものですから、お母さんやお父さんが何と言おうと、やっぱりもう18になっていれば自分で決めて自分で飲んで良いと思います。親が飲むなって言っても、親がちゃんと科学的な根拠をもって飲むなって言うんだったらわかるんですけど、何もわかんないでただイメージだけで、そんな怖いもの飲むな!みたいなこと言ってたら、それを聞く理由はないと思うんです。自分の身体は自分のもの、自分の健康のために自分ができることをやってというふうにすれば、自分の意思で飲んで全然良いと思います。
堀江(司会)
なかなかピルへの偏見みたいなものがあって、根強いってことですね。
吉野先生
そう。だから、ネットリテラシーもないなと思うんですよね、日本の女性って。だって英語を読めれば海外の情報だっていっぱい手に入るのに、全くそういうのを見ないで、個人の感想とか、2ちゃんねる的な悪口的なものとか、ピルって検索するとダーって悪いのがいっぱい出てきますからね。でもそれって出どころがわかんなかったり、本当にただの個人の感想だったりって。ちゃんと日本産婦人科学会、医会もホームページに情報は出しているんですけど、誰もそういうのを見ないんですよね。それで変なのをみて、ピルって怖いですよね!とか、ピル飲むと死んじゃうんですよねとか、なんか訳のわからないこと言ってくるので、どこを見てんですかって言うんだけど。ピルと、それから子宮頸がんのワクチンもそうですけど、すごい偏見とバッシングが多くて、どうなってんだろうなと思うけど、そういう人たちは正しい知識が全然わかってないのかなと思います。小中学校でネットリテラシー教えたほうがいいと思いますけどね、これから。もう生まれた時からスマホがあって、2歳児でもやってるくらいだから、やっぱりちゃんとした使い方を教えないといかんと思うんですけどね。
Q24. 男性指導教員として、フィールドワークに行く女子学生にどんな指導をすればいいのでしょうか。
椎野(オーガナイザー)
やっぱり指導教員と学生の関係で見ると、圧倒的に男性の指導教員が多いんですね。その場合に大きな問題は色々あるなと思っていて、男性のほうもどう女子学生に対して指導したら良いのかって悩んでる方もいらっしゃるんですよね。どういう関係をずっと築いてるかにもよりますけれども、やっぱりピルの話とか、いきなり男の先生から言われるとびっくりするかもしれない。でもやっぱりフィールドワーカーだったら、まあフィールドワーカーでなくても、常識として外に行くんだったら余計に、こうピルの話だとか普通にできるような環境作り、そしてまあ色んな条件も、経済的な問題にしても、どういうふうにして取り組むのかっていうことは現実的な問題としてあるなと改めて思いました。
吉野先生
はい。やっぱり指導する方たちは、まず女子学生には婦人科に行くようにってすすめて欲しいと思います。結構1回も行ったことないって人たちってたくさんいるので、初めて来て色んな病気…内膜症とか見つかっちゃったりする人がいます。軽い月経痛だと放っておく人も、鎮痛剤で何とか凌いじゃってる人も結構多いんですが、その影に内膜症だ筋腫だがあることがあるので、まず海外行っちゃってから重篤なことになってしまうこともあり得ます。実際に青年海外協力隊であったんですけれど、出国前の健康診断では全然内科的な問題はなかったので出発したんです。そしたら実際にはその子は内膜症で、向こうで卵巣腫れて破裂起こして、緊急搬送で戻って来たっていう。そういうのもあるので、やっぱり海外に出られる場合はまず自分の健康チェックってとても大事だと思います。それで女性の場合はただの血液検査とか身体測定だけじゃなくて、やっぱり子宮・卵巣の病気とかそういうのがないかとか、っていうのはちゃんとチェックしておくべきだと思うので、まず婦人科に行きなさいと。そこで、ピルの話とかねそういうのもして貰えばいいわけなんで。婦人科へ受診するということを、ある程度義務付けるじゃないですけど、するようにって指導してもらうのが良いのかなと思います。
椎野(オーガナイザー)
ありがとうございます。その時に検査してくださいっていうと、お金がかかるんですよね。
吉野先生
検査というとあれですけど、ただ相談だけでも別に良いわけで、これから将来海外に出ると思うのでどういうことに注意したら良いですかとか、検査はさっき言ったおりものの検査とかそういうのは全部保険でできますので、そんな大したお金ではないので、まあ初診料とか入れると3,000円、4,000円。5,000円はかからないと思います。でも子宮がんの検査も含めて、やっぱり1年に1回は検査を絶対したほうがいいです。自治体の検診なんかは補助が出るので、都内でも区によっては無料だったりします。市とか区によっては無料でやっているところもあるし、うちの中野区はちょっとお金がない区なので1,000円取るんですけど、子宮頸がんは少し安く検査も受けられます。なのでそういうのを利用したりとか。
あと男性の場合は、やっぱり加害者は圧倒的に男性が多いので、男性の教育がすごく必要なんです。企業とか社会のほうがちょっと日本は敏感で、今、性暴力とかDVとかに関して企業で研修することがあるんですよね。私も大手の企業何社かに呼ばれて、身体の話とか女性のホルモンの話とかピルの話とか、そういうの何度か過去にもしてるんですけども、企業は割とそういうのはアンテナを張ってる。でもアカデミアの世界ってそれすごく遅れてるんですよね。だからなかなかそういうのをやらないと思うんだけど、企業はその上の方の人たち、人事とかそういう上で動かす人たちはだいたい男の人が多いんですけど、そういう人たちの研修に私を呼んで話をさせたりとか、そういうのもやってます。だから、アカデミアでもそういう試みやってみても良いんじゃないかなと、女子学生を指導する立場として気をつけるべきこととかね。そういうことはやった方がいいと思います。あとパワハラ・セクハラ研修も企業はよくやってます。社会労務士さんなんかもよく呼ばれてやったりしてるみたいです。
椎野(オーガナイザー)
前回のSAYNO!の話(第一回サロン)ですと、そういう研修はやっても、そのやっぱり会社文化で、出るけれども意味はないっていう残念なことも…。これはもう日本社会全体の問題ですよね。
吉野先生
ダメな奴はダメなの、もう何言ってもダメな奴はダメなんですよね。ただちょっとでも、少しあっそうかって気がついて貰えたりとか、男性社会の中でも生きづらい男性っているはずなので、そういう人たちだけでも響いて貰えたらそれはそれで意味があるかなと思うんですけどね。
椎野(オーガナイザー)
本当にそう思います。私たちも少しずつ、男性の意識に何か響くように活動したいと思っています。
堀江(司会)
本当にフィールドに行かれる方、ナプキンを持って行って向こうでどうやってそれを捨てようとか、そういったことを考えるくらいだったら、低用量ピルを持っていくほうが楽だなと、荷物にもならないし。その値段と合わせたらとんとんなんじゃないかというふうに私は思ったりしました。
吉野先生
そうです。一年中出血させないで一年過ごすことはできます1注3:後日この点に関して吉野先生より補足をいただきました。「低用量ピルには、3週間飲んで1週間休薬し、消褪出血を起こす周囲的投与をする製品が多いです(休薬が4日間のものもあります)。この場合、消退出血時には出血がありますので、ナプキンが必要です。一方、連続投与といって、休薬を取らない服用方法もあります。連続投与用に作られているピルは、月経痛に対する保険適応のものの中の2種類(ヤーズフレックス、ジェミーナ)で、ヤーズフレックスは120日間、ジェミーナは77日間で一度休薬を取ることをメーカーは推奨していますが、これは治験の時のデザインがそうだったからで、科学的根拠はありません。このふたつに限らず、他の種類でも休薬を取らずに連続服用することは可能です。ピルを初めて飲みだしてからすぐは途中の出血も出やすいですが、半年以上飲んでいくと出血はなくなります。ピルを1年以上服用していくと子宮内膜がかなり薄くなるので、休薬しても出血しないこともあります。特に超低用量型のものがそうなりやすいです。ただ、おなかの調子が悪いとピルの吸収が悪くなり出血することはあります。そのため、ナプキンが手に入りにくいフィールドでは、ピルを飲んでいてもナプキンを携帯することが無難でしょう。そういったことを含め、ピルのことをよくわかっている婦人科で相談し、ご自分に合ったピル、合った飲み方を選んでください。」。はい。
堀江(司会)
ありがとうございました。