ウェブアーカイブ:第2回HiFサロン(FENICS共催)「フィールドで、性被害に遭ってしまったら」

目次

4.低用量ピル

4-1.女性の一生と女性ホルモン:女性の健康問題と女性特有疾患について

 私が勧めたいのはやはり低用量ピルの活用です。そもそも女性のライフスタイルって、戦後すごい変わりましたよね。初経とか閉経の年齢っていうのは10年も20年も変わっているわけじゃありません。初経はだいたい12、3歳、閉経はだいたい50歳から52歳。閉経というのは生理が自然に止まってくることで、1年間止まると閉経という定義です。それが変わらないのに、その間に行われる出産回数がものすごい減ったんですね。昔は10人なんて軽く産んでたのが、今は1人か2人、全く産まないなんてこともありますので、これが大きく変わったところです。

 もう一つ大きく変わったのが、どんどん平均寿命が伸びてきていることですね。昔はもうそれこそ、人生50年なんていう時代で、閉経してしばらくすると死亡だったんですよ。ところが今、日本の女性も87歳とか、非常に長生きになっていて、閉経してからの人生が長くなっています。これが何を意味しているかというと、閉経すると女性ホルモンはあまり出なくなってくるんですね。それまでは女性ホルモンに守られているので、いろんな病気が男性に比べて少ないんです。しかし閉経後は男性並みに、心筋梗塞、脳梗塞、神経関係の病気ですとか、あと女性特有の骨粗しょう症など、色んなものが出てきちゃいます。それが今、女性の健康問題の一つの課題ですね。

 出産が減ったということで、毎月毎月排卵・月経、排卵・月経…これが繰り返し繰り返し容赦なく行われます。実は、このことで増えている病気がたくさんあるんです。月経が毎月来るのは健康の印よね、とのんきなことを言っていた時代ではなくて、今は、毎月排卵・月経が来ることで病気が増えています。子宮内膜症というのは月経痛が酷くて見つかる病気ですけど、子宮や卵巣が腫れたりします。筋肉のこぶみたいなものが子宮にぼこぼこできて月経量が増えちゃう、貧血になるという子宮筋腫もありますね。加えて、子宮の奥にできる子宮体がん、内膜がんとも言いますけど、あと卵巣がん。この2つは、やはり排卵・月経を繰り返すことで増えてきてるがんですね。それから乳がんも、エストロゲンというホルモンで増殖するところがあるので増えてきている。それから、不妊症も増えてます。

4-2.妊娠の予定がないときには排卵・月経は必要ない

 10代の若い時期に妊娠・出産したいと思う人って、今、本当に減っています。今は、14~15歳で産んじゃったら事件ですよね。なので、この時期に排卵・月経が起こるのは無駄でしかない。子宮内膜症、子宮体がんなどの病気をつくる害悪でしかなく、健康でも何でもないんです。排卵というのは、元気の良い赤ちゃんになる質の良い卵子からどんどん排卵されちゃうので、年齢が進むほど、良い卵子はなくなってきちゃうんですね。オギャアと産まれた時に持って生まれた卵子を使い続けるだけで、新しくは作られないんです。卵子は非常に複雑で大きな分子なので、コストパフォーマンスが悪いんですね。だからもう、持って生まれたものを使っていくしかない。一方精子はコスパが良いので、簡単に作れます。何億個もいっぺんに作って放出することができて、フレッシュな状態でいつも作られてるんですけど、卵子はそうではない。なので、そんな貴重な卵子を、妊娠も考えない時にぽんぽん無駄に排卵させるのは勿体ないということがあります。ですので、低用量ピルのメリットとしては、これをコントロールできるということなんです。つまり、月経コントロールです。毎月出血を起こさなくても良いんですね。だから半年に1回とか1年に1回とか、3、4ヶ月に1回とか。海外であまりトイレなどがちゃんとしてない所に行く時は非常に便利だと思います。

4-3.疾患予防策としての低用量ピル

 それから、さっき言った子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣がん、子宮体がん…この辺に対しても、低用量ピルは全部予防できます。あと月経困難症、これは月経痛のことですが、そのような症状のある人たちには今、保険でピルが出ます。それからPMSというのは、月経前になると非常に身体も心も不調になるという状態ですけれど、この治療にも使えます。低用量ピルは、子宮内膜症の病気の予防だけでなく治療にも使われます。

 低用量ピルは、避妊薬として1950年代にアメリカで開発されて発売になったんですが、その作用のひとつは、卵巣が眠っちゃうんですね。排卵を抑制するっていうと無理に止めてるみたいですが、排卵がそもそも起きない。卵巣が眠っちゃいます。それからふたつめは、子宮の内膜が厚くならない。なので、受精卵がもし来ても着床できなくなります。さらに、排卵時期になると、ねばーっとした卵の白身みたいなおりものを経験されてる方もいるかと思うんですけど、あれは精子を中に引き込むためのおりものなんですね。それがピルを飲みますと、精子をブロックするような固いおりものに変化するんです。この3点で避妊ができるということで、開発・発売になったんですけど、日本には1999年になるまで低用量のピルは入ってきてないです。世界から40年遅れていました。

4-4.そもそも、ピルって何?

 低用量ピルは、2種類のホルモン、エストロゲンとプロゲステロンの合剤なんですね。図(下記『ピルによる子宮内膜の変化』)の上が、ピルを飲まなかった時の若い女性のホルモン動態で、1ヶ月の変化です。エストロゲンもプロゲステロンも毎日変化して上がったり下がったりしながら、排卵を起こしたり、妊娠の準備を身体にさせて、内膜を厚くするんですね。そして、妊娠しなければ月経が起こると。一方ピルは、エストロゲンとプロゲステロンの濃度が調整されていて、飲んでもあまり上がらないので内膜が薄い状態です。たとえば、ピルを飲んでいない時、生理前になると1.5センチから2センチ近く厚みがでるんですけど、ピルを飲みますと、1ミリ2ミリ、10分の1くらいになっちゃいます。そして、お薬を飲むのをお休みすると、消退出血って言う生理のような出血が起こります。出血は起こるんですけど量はとっても少ないです。また、月経の痛みの原因物質って、内膜内に入っているプロスタグランジンっていう物質なので、それが少ない方が痛くないんですね。なので、低用量ピルは月経痛にはとても良いということと、ホルモンが上がったり下がったりせず、月経前とか月経が終わったばかりでも差が出ないので、PMSにもすごく効果的です。

4-5.低用量ピル、どんなものがある?副作用は?

 今、保険適用のピルは図(下記『保険適用のピル(LEP)』)にある7種類が出ています。ただ、保険適用でも、値段もそんな安いわけじゃない。何度も言いますけど、国がお金を出さないからなんです。1番安いのが、フリウェルというジェネリックのシリーズですね。ルナベルのジェネリックがフリウェルで、フリウェルがだいたい1ヶ月分1,300円から1,400円、あとのはその倍以上します。2,200円から3,000円くらいです。保険適用といってもそんなに安くないです。東南アジアなんかでは1シートワンコインで500円とか、フランスではワンコインで半年分くらい確か買えると思いますけれど、それは国がそういうことにお金を使っているからです。女性の健康のためでもありますし、少子化対策として、若い子たちにピル飲ませておくと後で不妊症にならないということで、そういう意味合いもあって使っている国もあります。

 ピルの副作用のことをすごく気にされる方が多いと思うんですけど、今のものは超低用量化されてきてるので、ほとんど副作用を感じない方のほうが多いです。実際は、飲み始めの2~3ヶ月に吐き気と頭痛とかが出る人いますけど、それは月経が元々不順だったり、胃腸がとっても弱いという方が出やすいので、何でもない人が8割以上ですかね。また、頻度は非常に低いんですけど、重篤な副作用に血栓というのがあります。血栓というのは血管の中で血液が溜まっちゃって、それが脳に飛べば脳梗塞、心臓に飛べば心筋梗塞っていう、ちょっと怖い状態です。もちろんピルの副作用としてこれはあるんですけど、頻度は非常に低いです。たとえば大きな地震の後、車の中で避難してて血栓で亡くなっちゃうって事故が、過去にありました。何でもない健康な人が血栓を起こすリスクを1とすると、ピルを飲み始めて3ヶ月以内に血栓を起こすリスクは4くらいなんですね。でも、これは絶対リスクじゃなくて相対リスクというものなので、4倍っていう単純なものではないです。ここにタバコ、喫煙を入れますと、喫煙のリスクは11です。それから妊娠した時は13になります。1番血栓のリスクが高いのが産褥、お産の後12週目くらいで、30倍から40倍と言われています。毎年毎年、実は血栓で亡くなってるお産後のお母さんがいらっしゃるんですね。お産で亡くなる人、日本はとっても減らしてきてますけど、まだゼロにはできていなくて、1番多いのが出血死、次がこの血栓なんですね。だけど、ピルで起こす血栓は、交通事故に遭うより珍しいくらいです。だからこれを恐れてピル飲まないっていうのは、じゃあ妊娠しないんですか?って話になっちゃうんですね。

 緊急避妊とか、経口避妊に関しては、EC・OCコール(03-3267-1404)という電話相談の窓口があります。どこに行けば(緊急/経口避妊用ピルを)貰えるんでしょうかとか、そういうのも教えてもらえます。

4-6.フィールドワークに低用量ピルとコンドームの携帯は必須

 低用量のピルとか緊急避妊薬とかは、海外にフィールドに出られる方には、必需品じゃないかと思っています。経口避妊薬としての普通の低用量ピルとか、月経痛の治療薬としての低用量ピルっていうのを普段から飲んでる人は、緊急避妊する必要は全くないです。低用量ピルを飲んでいれば、緊急避妊薬よりは確実に避妊ができるので、慌てなくて済みます。ただ、ピルで性感染症予防はできませんので、これを防げるのはコンドームだけです。つまり、コンドームも使わないといけないということ。普段のパートナーとのセックスでもそうですけど、コンドームとピルとをダブルで使うのが一番安全です。

 ですので、海外に出て行った時は、低用量のピルを飲んでいくのはもちろんですけど、ある程度コンドームは持参して行った方がいいです。もうどうしてもダメだ、逃げられない、となった時は、コンドーム投げつけてこれを使えって、アメリカの女の子たちはそうやって教育されてます。ピルだけでは病気は防げないので、そういうのも必要かと思います。今、子宮頸がんなんかもセックスによるウイルス感染が原因というのがはっきりしてきているので、やっぱりセックスでうつる病気というのは侮れないところがあります。エイズですとか梅毒ですとか、もちろんそういうのもありますしね。なので、コンドームの持参も大事かなと思いますね。