報告書第一報

HiFが2022年に実施した「フィールドワークと性暴力・セクシュアルハラスメントに関する実態調査アンケート」の解析結果の一部を報告書の第一報として公開いたします。

以下のリンクからPDFファイルとしてダウンロードできます。

フィールドワークと性暴力・セクシュアルハラスメントに関する実態調査アンケート (2022年) の報告: 1 定量的な解析(7.9MB 2025年2月28日公開)

本調査の結果は3回に分けて報告する予定です。

この第一報では、選択式の回答とそれらの相互関係を数値的に解析しました。

現在解析中の第二報では自由記述回答の内容についての数値的な解析結果を、第三報では回答に記載された性暴力の記述を元に匿名化・フィクション化した典型例を報告する予定です。

一連の報告書が、フィールドワークを安心して実施するための議論や仕組み作りの一助になることを願います。

以下では報告書第一報の要旨を掲載いたします。

 

要旨

1990年代以降、セクシュアルハラスメントなどの性暴力が大学や研究機関において重大な問題として認知されるようになった。しかし、フィールドワークの現場で生じる性暴力については、質的および量的な調査分析やその結果をもとにした対策がこれまでほとんどなされてこなかった。多種多様な現場に赴き研究を実施するフィールドワークには、フィールドという特有の社会空間、またそれをめぐって生起する複雑な人間関係から生じる性暴力が存在すると考えられる。フィールドで生じる性暴力の対策は、学問的探究を行う人に等しく安全な場を保障するために共有すべき重要課題である。本調査では、フィールドワーカーが受ける性暴力の実態把握を目的として、2022年に大規模なオンラインアンケートを実施した。日本国内のほぼすべての学協会に協力を依頼し、総計272の学協会を通じて本アンケートを知った2490名から回答を得た。2487名の有効回答のうち、1895名 (76.2%) はフィールドワークを行ったことがあると回答し、そのうちさらに290名 (15.3%) がフィールドワーク中に自身が何らかの性暴力を受けたことがあると回答した。この290名のうち、87.2%が女性 (性自認の回答にもとづきHiFが分類) だった。また、性暴力を受けた回答者のうちの242名から、352件の性暴力に関する具体的な情報を得た。このうち、最近の10年間(2013–2022年)に起こった性暴力の事例は124件ともっとも多く (性暴力の事例全体の35.2%)、なかには、調査時点 (2022年) の30年以上前に起こった性暴力についての回答もあった。

この調査結果の第一報となる本報告書では、数値データの集計によって得られた定量的な分析結果を示す。352件の性暴力の事例から見える特に明確な傾向として、加害者が男性である性暴力が94.3%だったこと、上の年齢階級から下の年齢階級への性暴力が77.7%だったこと、さまざまな職位のなかで大学院生 (57.4%) と学部生 (14.8%) がもっとも多く被害に遭っていることが明らかになった。また、フィールドワーク前に性暴力に関するガイダンスを受けたことがない人は、フィールドワーク経験のある1895名の回答者のうちの88.6%を占めた。自由記述の設問に対する回答のほとんどは未分析であり、今後報告を予定しているものの、本報告書で扱うデータは、フィールドワーカーが被った性暴力の一端を定量的に示している。