イスラーム圏における女性のフィールドワーク—バングラデシュの場合

Ⅳ おわりに(若手フィールドワーカーへのメッセージ)

 この体験記からは、団体渡航は安全で、個人でのフィールドワークは危険な目に遭いやすいという印象を持つかもしれません。私が警察署に届け出を出すようになるきっかけとなった事件も、他の教員や学生が首都に行き、私が村で1人になった日に起こりました。しかし、私は学部生の時には研究者になるとは夢にも思いませんでしたが、研究一筋になったのは、学部4年生時に1人でフィールドワークをしたことがきっかけです。1人になってみて経験したのは、団体渡航で手厚く守られているときにはわからなかったことばかりでした。このように、自分1人で行うフィールドワークも非常に重要で、フィールドへの思い入れも強くなります。そのため、この体験記では決して(はじめての渡航を除いて)団体渡航を推奨しているわけではありません。1人の渡航も情報収集と安全対策をしっかり行えばよいのです。フィールドワークは研究だけでなく、人生にとても豊かな経験をもたらしてくれます。しかし、それがトラウマになるような経験によって台無しになる可能性もあります。警察の護衛の例のように、調査と安全対策はトレードオフの関係になることがしばしばあり、どこまで調査をとるべきか、あるいは安全対策をとるべきか、線引きが難しいところがあります。しかし、あらゆる事象に関して「〇〇の場合は××せよ」というようなマニュアルはなく、対応・対策に正解、不正解という評価をつけるのも難しいです。事前にしっかり情報収集し、何らかの事態に陥ったときに取りうる選択肢を広げておくのが重要です。この体験記がその一助になれば幸いです。